ナンバークラブ



先日知り合った、星新一が好きな方から教えていただいた、おもしろいはなし

もう30年ほど前、インターネットがまだまだ誰も知らなかったような時期ですが、SNS的なサービス について、星新一さんは思いを巡らせていたようです。より多くの人と、未知なる人と出会ってみたい欲求は人として当たり前のものなのですね。また、それを求めるすぎることによる危うさについても表現されています。

結局テクノロジーがどれだけ進んでも人の基本的な欲求はかわることもなく、それを求めることでおこる様々な出来事もまた人間的でおもしろいです。

以下、そのまま今のソーシャルメディアのあり方にあてはまりそうな箇所抜き出して記載しました。

◆◇◆キーワードをうまく検索して仲間を見つける◆◇◆

机の上のこの装置は、中央コンピューターセンターに有線でつながっているのだ。そこには、エヌ氏の過去の記録がすべて、テープにおさまっている。いま自分の番号をたたいたことで、それがよびさまされた。相手の男のも、またそうなった。

中央コンピューターセンターは、二人の記録を電子作用で自動的にすばやく対照し、その共通したいくつかの事項のうち、最も新しい部分を、文字に打って知らせてくれたのだ。

むかしだったら、初対面の人とのあいだに共通の話題をみつけるにはかなりの努力を必要としたし、時間だってかかった。しかし、この科学の成果は、それをあっというまにやってくれる。

◆◇◆記憶装置としての活用◆◇◆

そのサービスセンターができた時、エヌ氏はあまり魅力を感じなかった。プライバシーをおかされることへの不安もあった。しかし、世の中には加入する人もあった。忘れっぽい人にとっては、便利なものといえた。いつ、だれと会ったか、どこへ行ったか、そんなこともこのセンターに登録しておけば、すぐ質問に答えてくれるのだ。何月何日にはどこへ行ったか、どこそこへ行ったのはいつだったか。どんな形の質問をしても、すぐ思い出させてくれるのだ。

◆◇◆新しいメディアに対する不信感◆◇◆

「ほんとですよ。このナンバー制度を拒否して入会したがらない人がいるようですが、どういうつもりなんでしょうな。プライバシーがどうのこうのと言う人がいるが、それを秘密にしつづけ、としをとり、死んでしまうなんて、意味のない人生です」

「プライバシーだって、情報の集積、一種の財産ですよね。それを有効に使わないという法はない。使ってこそ財産としての価値が出てくる。このナンバー制がなかったら、あなたとわたしも、ただ顔をみあわすだけで終りです。ゆきずりの他人にすぎず、こうまで親しくはなれなかった」

「まったく、ナンバー制とこの装置のおかげで、わたしたちはここで過去を共有できた。人生がそれだけさびしくなくなる」

◆◇◆プライバシーのコントロール◆◇◆

きみもナンバー・クラブに加入したらどうだい」

「いやだよ。ぼくはプライバシーを大切にしたいんだ。これこそ自分だけのもの。これを他入にまかせたら、自分か自分であることを失ってしまうのじやないかな」

「そう悪いとも思えないがなあ」

「いけないよ。そういう考え方がいけないんだ。ずるずるといつのまにか自分を失い、気がついてみたら、どうしようもなくなっている」

「どう悪くなるというんだね」

「はっきりはわからないが、いいことではないような気がするんだ」

友人との話は、かみあわなかった。

◆◇◆あらためて、新しい仲間作りの魅力と過度利用の不安◆◇◆

だれでもいいのだ。ナンバーと装置さえあれば、だれとでもすぐ親友になれる。

「どうぞよろしく。楽しくやりましょう」

会員証を入れ、ナンバーを押す。その指は禁断症状がおこりかけているかのように、ふるえている。しかし、そのふるえはすぐにおさまる。三十秒たてば、そばにいる初対面の百年の知己と、新鮮で意外な、驚きにみちた、なつかしい話をとめどなくかわしあうことができるのだから。

◇◇◇全編はこちらで読めます。


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